フォワードコンバータの製作
こんにちは、ノグエレです。
コロナウィルスの影響で今年度から通う大学にも行けずにほそぼそと外出自粛生活を送っているところです。
大学名は伏せますが、Twitterの電気界隈の方が結構いらっしゃって、早く大学に行けるようになるのが楽しみでしかたありません。
早速ですが、今回は趣味のパワーエレクトロニクスという名にふさわしく、主にスイッチング電源について書こうと思います。
不適切な部分もあるかとは思いますが、最後までご覧いただけると幸いです。
今回製作する電源について
私たちが使っているACアダプターや充電器、電化製品の中のスイッチング電源の多くはフライバック型と呼ばれるスイッチング方式の回路が高い割合を占めており、名前を初めて聞いた!という方にも分かりやすいように解説したり設計の手順を記事にすることも考えましたが、ネットで投稿されている記事のスイッチング電源のほとんどがフライバック型で、見る人によっては有り触れたやつだなと感じてしまうかもしれないので、今回はフォワード型を製作しようと思います。
フォワードコンバータの動作
こちらがフォワードコンバータの構成回路図です。
フライバックコンバータのトランスと極性が逆だったり巻線やリアクトル、ダイオードが増えてますね。
スイッチ素子は実際の回路でよく用いられるMOSFETが書かれていますが、ここではスイッチ素子と呼ぶことにします。
続いて、この回路図を用いてフォワードコンバータの3つの動作モードを示します。
モード1.
スイッチ素子がONになっている時、負荷電流は赤色の線のように主巻線を通って流れます。この時、2次側のリアクトル(以下、平滑リアクトル)にエネルギーが蓄積され、また1次側の回路には負荷電流と同じ方向に励磁電流というものが増加しながら流れます。
モード2.
スイッチ素子がOFFなると2次側では平滑リアクトルに蓄積されていたエネルギーが放出され、フライホイールダイオードを介して負荷電流が流れます。
1次側では励磁電流が主巻線からリセット巻線に転流して緑色の線のように流れますが、徐々に流れなくなっていきます。
モード3.
1次側の励磁電流が完全に流れなくなりますが、2次側では負荷電流はモード2に継続して流れます。
この回路だけでは負荷が変動すると出力も変動してしまい使い物にならない電源が出来上がってしまいますから、実際の回路では出力を安定させるための制御回路が加わってモード1から3を繰り返しながら動作します。
フォワードコンバータのメリット
今回は、フライバックコンバータと比べた時のメリットを紹介します。
まず、フライバックコンバータの構成回路図を示します。
フォワードコンバータと違って、2次側の巻線が1次側の巻線に対して逆極性になっています。
このように逆極性になっていると、スイッチ素子がONになった時には2次側には負荷電流が流れず、トランスにエネルギーが蓄積されます。
このエネルギーを蓄積する為にフライバックコンバータのトランスには以下の写真のようなコアとコアの間にギャップというコンマ数㎜程度の隙間が設けられます。
実はこのギャップというのは厄介なもので、ギャップを設けることによって漏れ磁束が増加して、巻線のインダクタンスに対して漏れインダクタンスというものの割合が高くなってしまいます。
これにより、スイッチ素子がOFFになったときのサージが増加して、その結果スイッチング損失の悪化、さらには電源全体の効率にまで影響が出てしまいます。
5V 数Aといった低電圧大電流出力の電源では影響が顕著になります。
しかし、フォワードコンバータではトランスでエネルギーの蓄積は行われないのでギャップを設ける必要がなく、必要があったとしてもインダクタンス調整ぐらいなので、フライバック型よりも低電圧大電流出力に対しては有利です。
また、エネルギーを蓄積しないのでトランスの大きさも小さくなり、例えばPC44PQ20/20といった小型なコアでも100W程度の電源を作ることができます。
実際、フライバックコンバータは200W級の容量までしかカバーできませんが、フォワードコンバータは500W級までカバーのできる優れた方式です。
製作したトランスについて
今回は、AC100V 50㎐/60㎐入力、5V 6A出力の電源を設計しました。
フォワードコンバータのトランスの巻線と電圧の関係は、
(2次巻線電圧)=(2次巻数/1次巻数)×(1次側入力電圧)
です。
なんやかんやあってトランスの1次側巻線·リセット巻線はそれぞれ32回、2次側巻線は4回、補助電源巻線は8回、平滑リアクトルは36μHと決まりました。
いつもトランスを巻くときに用いるポリウレタン銅線が在庫切れになってしまったので、人生で初めてホームセンターのエナメル線(ポリウレタン銅線)を購入しました(笑)
巻き途中です。
慣れていないのでとても絡みました。
平滑リアクトルです。
リッツ線の上から熱収縮チューブで絶縁処理をしたのでトランスの巻線用テープは使いませんでした。
実際の回路図
定数は適当(?)です。回路図にはないですが、100μFには15V程度のツェナーダイオードを並列させました。
趣味レベルなので、組んで動けばOKだと思います。
2次側のエラーアンプの位相補償は安定した応答をしてくれるタイプ3を用いています。
出力を変えて設計するとき、進み、遅れ位相補償のCRの値には気を付けて下さい。
実際に製作してみる
こんな感じになりました。
実際に5V 3Aで充電するスマートフォンも繋げてみましたが、きちんと動くようです。
TL494でフォワードコンバータを作りました pic.twitter.com/TcVw9UzO6I
— ENgelou (@EN_gelou) 2020年5月7日
ちなみに裏面はこんな感じです。
絶縁距離は、IECやULといった製品安全規格に準じて設けていますので、コンバータ部の設計をまともに行い、プリント基板に起こせば製品としての量産も可能になっています。
ラインフィルタについて
今回の記事では、ネットでよく見かける電源の記事では触れられていないラインフィルタについても触れていこうと思います。
ラインフィルタというのは、先ほどの回路図の主に赤線の部分の回路を指します。
ラインフィルタを設ける目的をざっくり説明すると、主回路から発生するノイズをACラインに出さないように、また他の機器からのノイズを主回路に侵入させないようにすることです。
ラインフィルタの性能が機器のパフォーマンスにも影響し、特に映像機器やオーディオ機器では画質や音質を大きく左右すると言われています。
ラインフィルタの自作例で特にオーディオ界隈が自作しているのネットで見かけますが、たまにその回路ではノイズがいまいち除去出来ないのではないかというものもあり、(そこまで詳しく記事にできませんが)正しい理解を広めるという名目で、今回、基本的なラインフィルタの構成回路や使用部品について簡単に示していきます。
ただ、今回はスイッチング電源向けなので、オーディオ界隈の方々は参考程度にご覧下さい。
ラインフィルタの構成回路
上の回路図が一般的に用いられるラインフィルタです。
C1はアクロス·ザ·ラインコンデンサと呼ばれるコンデンサです。主に、ノーマルモードノイズやディファレンシャルモードノイズを除去してくれます。
一般的に数十nFから数μFの範囲で設定され、耐圧がAC275VやAC300Vといったものが用いられます。安全規格を満たす印の押されたものを使用して下さい。
R1はC1の放電抵抗です。
これを付け忘れるとコンセントから抜いたときに、最悪このコンデンサの放電が終了しておらずプラグを手で触って感電してしまいます。
C2、C3はラインバイパスコンデンサと呼ばれるコンデンサです。主にコモンモードノイズを除去してくれます。
C4はコモンモードコンデンサと呼ばれ、主回路のコモンモードノイズを除去してくれます。
C2~C4は一般的に数百pFから数nFのコンデンサが用いられています。安全規格を満たしたものを絶対に使用して下さい。普通のコンデンサを用いると最悪漏れ電流により機器に触って感電します。
中国メーカーのスイッチング電源だと稀に普通のコンデンサが使われているので日本メーカーの電源を使いましょう。
L1はコモンモードコイルと呼ばれます。主にコモンモードノイズの除去を行います。
通常のコイルと異なるのが巻線の向きが同じだという所です。こうすることで、ACラインに流れる交流電流は双方で磁束を打ち消して交流電流に対してのインピーダンスがキャンセルされますが、同相で侵入するコモンモードノイズに対しては高インピーダンスとなり、結果ノイズを減衰させることができます。
ZNRはサージアブソーバで、ACラインに雷などによって高電圧サージが入ってしまっても主回路に流れるのを防ぐ、いわば門番のような存在です。
ヒューズはACラインのL(ライブ)側に来るように設けます。
ここで、コモンモードコイルとラインバイパスコンデンサの選定について注意する点があります。
大容量電源など、コモンモードノイズが多い場合、コモンモードコイルの大きさの関係でノイズをグラウンドに逃がすラインバイパスコンデンサの容量を増やしてしまうと、漏れ電流が増えてしまい危険です。
なので、コモンモードコイルを2個に増やしたりしている回路もあります。
また漏れ電流iは、
i=2π×(合計容量)×(電源電圧)×(電源周波数)
で導出できます。
実際の使用部品と入手
こちらはアクロス·ザ·ラインコンデンサです。
秋月電子で47nFと100nFが入手できます。
こちらはラインバイパスコンデンサです。
秋月電子で2,2nFが入手できます。
こちらはコモンモードコイルです。
秋月電子で左のものが入手できます。
余談ですが、先程紹介したアクロス·ザ·ラインコンデンサとラインバイパスコンデンサについて、それぞれ別名があります。
アクロス·ザ·ラインコンデンサはXコンデンサ、ラインバイパスコンデンサはYコンデンサという名前がついています。
ここからは個人的な考察ですが、Yコンデンサは回路図を書き換えると写真のようにYの字になるので名前の由来はここから来てるのかな~となんとか分かりますが、Xコンデンサは想像しにくいと思います。
回路図を無理やり曲げてみました。この結線の仕方はちょうどプリント基板などを作る際に通常このようにACラインとコンデンサとを繋ぐ時と似ています。そのときに誰かが基板を裏から覗いたらXに見えるからXコンデンサと名付けたのでは?と思いました。
最後に
最近、Twitterなどでスイッチング電源の自作をよく見かけるようになりましたが、スイッチング電源は高電圧を扱うので自作や既製品の改造は安易に行わないで下さい。万が一自作するときは、自分の体を最優先して、危ないと感じたらすぐに中止して下さい。
自分の体があってこそ工作ができるということを忘れないで欲しいです。
これは私からのお願いです。
また、今回製作した電源は、あくまでも電源好きな私の観賞用ですので、製品レベルの性能はありません。個人使用で実用するのであれば、安全規格に基づき設計するのをおすすめします。
ここまで読んで下さって、誠にありがとうございました。
良ければTwitter(@EN_gelou)の方でもよろしくお願い致します。
参考文献
DC/DCコンバータの基礎から応用まで (平地克也)
スイッチング電源設計の勘どころ (佐藤守男)
他 自分の経験と勘